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Column

第20回 プロジェクトの見える化

「見える化」というキーワードはトヨタに語源のルーツがあるらしいが、今では多くの業界で「見える化」という言葉が普通に使われている。見える化の目的は、問題の早期発見と早期解決であり、早く問題を察知し素早く対応することで問題を未然に防いだり、問題がまだ大きくならないうちに解決したりすることで、業務の成果を確実することである。
英語では「Visibility(可視化)」という言葉があてはまり、「可視化」という言葉が以前より使われていたが、今では見える化の方が一般的になって使われている観がある。どちらにしろ、見える化の目的は、そのままプロジェクトマネジメントのニーズに合致するものであり、プロジェクトマネジメントを実践していくためには見える化は不可欠の要素でもある。今回は、この見える化について少し話を進めることにする。

見える化の意味

プロジェクトマネジメントで重要なキーワードとして、アートとサイエンスという言葉があるが、見える化はサイエンス部分において重要な役割を果たす。プロジェクトマネジメントにおいて成果の貢献はプロジェクト関係者の行動の良し悪しに全て依存している。関係者がタイミングよく、正しい行動を取れるか取れないかがプロジェクトの成否を決定付けることになる。
では、正しい行動を行うためには何が必要であろうか? それは、正しい意思決定である。ここでの意思決定は、何かの会議体の意思決定に限らず、日々のプロジェクト活動における意志決定も全て含まれている。プロジェクト関係者がいつも正しい意思決定を行ってくれるのであれば、プロジェクトが問題に遭遇してもこれを切り抜けることが可能である。では、さらに突っ込んでいくと、正しい意思決定はどうやってできるのかということになる。見える化はまさにこの部分に関与する行為であり、正しい意思決定を行うために必要な情報を提供することが見える化の根幹の目的となる。さらに、もうひとつ見える化の重要な役割をあげておきたいが、それは意思決定による行動の推進力への貢献である。見る化を徹底した上での意思決定には実行力がともなるのである。このことについても、見える化の意思決定に与えるメカニズムをとおして少しわかりやすく説明していきたい。

見える化の意味合いを考えるには、意思決定はどのように行われるかを理解する必要がある。意思決定を行う上で重要なことは、現状を正しく理解することと将来を見通せる力がとても重要である。将来を見通すことは容易ではないが、現状を理解することは誰でもできる。しかし、それには正しい情報を集めることが必要となる。人は往々にして自分の経験と知識という「眼鏡」を通して物事を見る癖がある。その眼鏡は、経験の違いや持てる知識の違いから、それぞれ色も形も異なる。それに対して、外部からの情報が意思決定のトリガーを引き、持てる眼鏡の能力を最大限引き出して意思決定しようとするものである。その時、与えられた情報の質と量のレベルがどの程度なのかが意思決定において重要な意味を持つ。限られた情報は、多くの推測を必要とし様々な不確定要素を入れ込んだ結果の意思決定となる。与えられた情報をもとに、それぞれの経験と知識に照らし合せ答えを導き出すが、情報が少なければ自ずと推測部分も多くなる。推測はあくまでも推測であり個人ごとにブラックボックス化され、しかも推測ルールも異なるため、導き出される結果も異なる可能性が高くなる。だが、現状が正しく見える化されておれば、推測の領域は大きく減り、全体が透明化されたなかで判断を仰ぐことになる。その結果、意思決定の個人によるバラつきは大きく減ることになり、意思決定の品質は結果的に改善されることになる。このように、見える化は、意思決定の品質を向上させ、そのことが正しい行動を生み出し成果を出せることになる。
さらにもう一つ見える化の重要な要素として挙げられることとして行動の確実性がある。見えない中での意思決定が行われても、経験と知識のある人が、少ない情報をもとに個人の力量で判断を下すことは不可能ではない。ただ、このときその判断をどれだけの人が正しい判断だと認識できているかが重要である。見える化が不十分なままで意思決定の判断が行われた場合、ある人にはその判断が正しいと思えても、別な人にはどうしても納得がいかない、という状態が起こりやすくなる。眼鏡が違う以上、これは避けられないことである。しかし、そのような状況においても、何らかの判断は下さざるを得ないとなると、意見の不一致の中での意思決定が行われることになる。多くの場合は、その時の参加者個人の発言力や賛否の数という集団力学の中で意思決定が行なわれるというのが普通である。このときの意思決定は、全体として納得度の低い意思決定となる可能性が高い。ここに問題が残る。自分が納得のいかない意思決定に対して、自分がどれだけサポートしようと思えるかである。つまり、全体の納得度が低い中での意思決定にどれほどの推進力をもつのかという疑問である。もし、少しでも意思決定と違う状況が垣間見えると、やはり違うという気持ちが強くなり、決定された行動に疑念を持ち始め何がなんでもその行動を継続しようとする推進力は弱まることになる。一方、見える化によって、かなりの部分で理解が得られた意思決定に対しては、多くの関係者がその決定に納得しその決定が正しいと信じ、決まったことをやり遂げようとする意志が強く働くことになる。つまり、意思決定への納得感は人の行動へのモチベーションに大きな影響を与え、結果として人の行動の推進力に大きな違いを生じさせることになる。
物事は総じて、徹底するほうが明らかに良い結果が出やすいものである。見える化による意思決定は、このように意思決定の質を高めるだけでなく、意思決定の推進力も高め、結果としてプロジェクトの成功の可能性も高めることに繋がるのである。

見るべきもの

プロジェクトマネジメントにおいて見るべきものは様々である。プロジェクトの成果に関わるものには、プロジェクト成果物やマネジメント要素であるスケジュール、コスト、品質、スコープ、リスク、課題、さらには人間的要素である個人のモチベーションや顧客との信頼関係など様々なものが存在する。しかし、見るべきものが多ければ多いほど、当然その分の費用と労力も大きくなり、プロジェクトにとっても負担となる。見える化とは全て見ることではなく、結果を出すために必要なものを見ることであり、見える化の範囲は経済性の中で判断される必要がある。見える化のためのコストや労力と見ることによる価値、そのバランスを考えた上で見るべきものは何なのかを考えなくてはならない。また、見える化を行うには計画性も重要である。場当たりに見るのではなく、見るものを計画的に見えるようにしなくてはあまりにも効率が悪くなってしまう。では、効率的に見える化をするにはどのようにする必要があるのか? それにはプロジェクトや組織での意思決定のあり方と一緒に考えることが不可欠となる。意思決定のあり方が分からなくて見える化しようとすると、結果として無駄なことまでも見える化し、意思決定に使われない情報を高いコストと労力をかけて見える化することとなり、情報を収集する人達の不満を買い、結果として見える化の仕組みそのものが破たんすることにもなりかねない。何が必要かわからなければ、想定されるものをあれこれ準備しなくてはならず、結果として詳細なかつ大量の情報収集に走ってしまう。見える化で気をつけないといけないことは、情報を収集している人達の納得感であり、その情報が役に立っていないとわかったとたん、情報の質は大きく低下し見える化の仕組みが死んでしまうことになる。
下記に見える化を行うまでの大まかな手順を示す。

先ず行うことはプロジェクトの成否を影響を及ぼすリスクの特定である。プロジェクトの成否に大きな影響を及ぼすものは何か、またプロジェクトの成功を担保するにはどのようなリスクに対応しなくてはならないかを特定することが必要となる。一般にスケジュールの見える化を行うことが多いのは、スケジュールが見えないと関係者の行動に混乱をきたし、プロジェクトリスクが大きくなるからであり、スケジュールの見える化はある意味ではプロジェクトリスクへの対応とも言える。また、コストや品質なども同様である。プロジェクトのおかれた環境の中で成功を脅かすリスクを特定することで、どのような情報が必要なのかを理解する。
次に、そのリスクをコントロールしプロジェクトを成功に導くにはどのような意思決定及び問題解決の体制とサイクルを持つかを検討する。意思決定に出てくるメンバーが意思決定するにおいて、どのような情報を必要とするのか、またその情報の粒度はどのレベルまで必要とするのかを明らかにすることで、見える化すべき情報とその粒度も決まってくる。また、意思決定の体制は別に一つとは限らず、プロジェクトが大きくなると複数意思決定の体制も考えられ、さらに階層性を持つこともあることも付け加えておく。この意思決定の体制の設計は見える化に重要な方向性を与えることになる。

次に、検討すべきは見える化の情報の順位とその情報収集に関わる労力である。意思決定者が必要な情報を特定することは最低限必要であるが、経済性の観点から意思決定者が満足する情報を全て収集できるとは限らない。また、意思決定においても必須の情報もあれば補助的に使う情報もあり、情報利用の仕方も異なっているはずである。その中で、見える化のためのコスト・労力と意思決定の質と価値を天秤で量りながら、見える化すべき情報の優先順位を決めていくことになる。また検討においては、情報の種類だけでなく、どこまでの粒度で情報を集めるかも含めて議論する必要がある。その結果、プロジェクトとして妥当な見える化の範囲が明らかとなることで、効率的な見える化の仕組みを検討することが可能となり、無駄のない意思決定のための見える化の仕組みの構築も可能となる。
このように、見える化が意思決定のための手段であることを充分理解した上で、意思決定の行動とからめて見える化の仕組みをつくることが、効率的な見える化の仕組み作りにつながることになる。