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第21回プロジェクトマネジャー(前編)

プロジェクトにおいてプロジェクトマネジャーの果たす役割は大きい。Tony*1)によればプロジェクトの成功・失敗に対してプロジェクトマネジャーが与える貢献度は50%と報告されている。誰がプロジェクトマネジャーをやるのかによってプロジェクトは成功もすれば、プロジェクトの目的を果たせずに失敗もする。それほど、プロジェクトにおいてプロジェクトマネジャーの貢献度は大きいというのが定説である。
この定説を裏返すと、多くの優秀なプロジェクトを抱える企業は優秀なプロジェクトマネジャーが少ない企業に比べて、競争力が高いとも言い換えることができる。しかし、残念ながらプロジェクトマネジャーを組織として意図的に育成している企業は驚くほど少なく、育つも育たないも個人任せというのが現状であろう。なぜ、プロジェクトマネジャーを組織として計画的に育成しようとする企業が少ないのか? プロジェクトマネジャーは育てるものではなく、個人の資質で決まってしまうものなのであろうか? プロジェクトマネジャーの役割や資質をもとに議論を始め、プロジェクトマネジャーの育成について話を進めていくこととする。

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*1) Frank Toney, "The Superior Project Organization",2002,Marcel Dekker

プロジェクトマネジャーの役割

PMBOKの定義によれば、プロジェクトマネジャーとはプロジェクトの目標を達成するために母体組織によって任命された人をさしており、プロジェクトマネジャーはプロジェクト目的達成の請負人ともいえる。その中で、プロジェクトマネジャーはプロジェクトに関与する社内メンバーや外部の協力会社のメンバーをまとめ上げ、プロジェクトに関係する様々なステイクホルダーの期待を上手く調整し、プロジェクトを成功に導かなくてはならない。いわゆる、プロジェクトのマネジメントに関してのプロフェッショナルとして役割を期待されている。そのためには、当然プロジェクトマネジメントに関する知識を習得しているだけでなく、知識を活用して成果をさせるための実践力をも身に着けておらねばならず、またプロジェクトに関わる多くの人達をまとめ上げ強いチーム築きプロジェクトを成功に導くための人間力をも兼ね備えていなくてはならない。このように、プロジェクトのマネジャーの役割は重く、非常にストレスの強い仕事であり、誰でもできそうな感じはしないと思うのが当然であるが、しかしプロジェクトはそのようなプロジェクトマネジャーを必要としており、その役割はプロジェクトが違っても大きな差はないのが現状である。

プロジェクトマネジャーの資質

優秀なプロジェクトマネジャーはどうすれば育つのであろうか?それとも、個人の資質で決まってしまうものなのであろうか? このような疑問は誰もが持つと思われるが、プロジェクトマネジャーの資質を考えることで、この疑問に答えていきたい。Tonyの調査によれば、プロジェクトマネジャーの重要な資質は次の4つに絞られる。この4つの資質がクリアーできれば優秀なプロジェクトマネジャーとして育つ可能性があるということになる。では、なぜこの4つが重要なのかを考えてみたい。

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*2) Frank Toney,"The Superior Project Organization",2002,Marcel Dekker

第一に、常にプロジェクト目的の達成に焦点を置いて意思決定し行動できていることがあげられる。プロジェクトでは様々な問題に遭遇しプロジェクトマネジャーはその問題に対して最善の意思決定を行い対応していかなくてはならないが、優秀なプロジェクトマネジャーはその意思決定において、その場の雰囲気や状況から判断せず、常にその意思決定がプロジェクトの成果にどうような影響を与えるかを考えた上での判断を行う。当たり前のことにように思えるが、思うほど簡単なことでもなく、それをやり遂げるにはその影響を見極めるためのプロジェクト全体を俯瞰できる力と、その決定を下すための強い意志が必要となってくる。例えば、顧客からの強い要望があり、顧客はどうしてもその要望を実現して欲しいと言ってきても、顧客の要望を実現しようとすると将来的にプロジェクトに悪影響を与える可能性があり、プロジェクトの目的を果たせないリスクがでてくるとした場合、顧客に対してNOと言わなくてはならず、さらには単に拒否するだけでなく顧客にも納得してもらわなくてはならないのである。そのリスクをどのように読み取りNOという判断をし、顧客にどう納得できる説明が可能か、相当強い意志と全体を俯瞰する力を持っていないと、その場の雰囲気に流され、まだなんとかなるだろうと安易に受けてしまうことになりかねない。その場では、安易な判断は顧客に喜ばれるかもしれないが、あと後大きな問題を抱えてしまい、プロジェクトの目的を達成できないようなことにもなりかねない。この力は、判断基準を目的達成におき、プロジェクト全体を常に俯瞰してみようとする意識を持ち続け、情報把握を怠らなければ努力でできるものである。

第二に、分析的であることがあげられるが、これも理解できる。プロジェクトマネジャーは様々な状況の中で的確な判断と意思決定を求められる。その判断によって、取るべき行動は変わり、得られるべき結果も変わってくるものである。いかに、正しい判断・意思決定ができるかはプロジェクトマネジメントにおいても重要な要素であることは、前回のプロジェクトの見える化においても述べた。また、意思決定された結果の行動には遂行力が必要であり、その意思決定のだれもが納得して行動できるかどうかは結果を出すための必要条件ともなってくる。その観点から、分析的であることがどれほど重要かが見えてくる。分析的でない判断も可能であるが、その判断は個人の内部ロジックであり、だれも見ることができない。その判断が正しければ良い結果を生むが、間違っていれば悪い結果がでてくることになる。分析的であるということは、客観的に物事を見定め、できる情報を収集し、その影響など様々な視点から検討し意思決定をおこなうことである。客観的な情報収集と客観的な判断は、正し意思決定に導く可能性を高めるだけでなく、そのやりか方はわかっているので間違っていたならば修正が可能であり、正しければ同じやり方でやれば再現性によって、再度正しい判断を下す可能性があるということになる。また、分析的であるということは、物事の意思決定における考えを透明化するので、説明を可能性にし、意思決定に対しての関係者の納得感を高める効果もある。このように、分析的な行動をとることによって、プロジェクトの成功の確率は増すことになる。

三番目にプロ意識を持つことであるが、これはプロジェクトマネジャーの姿勢であり、自分をプロフェッショナルとして意識して行動できるかどうかが問われる。プロジェクトマネジャーとしてプロジェクトを遂行すると決めた以上、プロジェクトを何が何でも成功に導く意識を持てるかどうかということだが、これも言うほど簡単なことではなく、残念ながら企業においてプロ意識を持ったプロジェクトマネジャーはそれほど多くは見かけない。プロジェクトマネジャーとして任命されるプロジェクトマネジャーは大勢いるが、プロジェクトを成功させるためにプロジェクトの条件闘争まで踏み込んで組織のマネジメントと闘う人がどれほどいるかを見ていれば良くわかる。多くの人は、与えられたプロジェクトメンバーと予算で何とか努力しようと頑張ろうとするが、基本的にプロジェクトの成果に対してコミットしてない。その結果、プロジェクトは上手くいかず失敗しても、その責任は自分ではなく無理な条件でやったか仕方がないと、いろいろ言い訳するケースが多くの企業で見られる。つまり、アマチュア集団のプロジェクトマネジャーを多く抱えた組織は、プロジェクト条件が曖昧でプロジェクトの失敗が多発しているのが実情でないかと思われる。プロ意識を持つということは、プロジェクトの成果にコミットする代わりに、プロジェクトが成功する条件を整えてもらえるように組織とも交渉する。このような行動ができる人がプロフェッショナルであり、そのような行動を行えるためにはつねに、自分がプロであるという意識を持ち続ける必要がある。

最後の項目がもっとも基本的な資質となるが、この結果は米国での調査結果であることを改めて述べておきたい。日本人から見れば「誠実である」ことが重要なことはすんなりと受け入れられるが、米国においても誠実であることがプロジェクトマネジャーの重要な資質であるということに重要な意味を感じざるを得ない。洋の東西を問わず、「誠実」であることはプロジェクトを成功に導く重要な要素であることが確認されたということである。プロジェクトの成功のためには、プロジェクトチームメンバーや顧客などのプロジェクトステイクホルダーとの信頼関係が重要であることは誰もが認めてもらえることだと思う。しかし、信頼関係を構築できるかどうかは、その人に大きく依存していることも事実である。人は人を見抜く力を持っており、この力は侮れないものである。人が意識できる処理能力は40ビット/秒にすぎないが、脳は無意識の中でも働いており人は無意識の中でその人のしぐさや雰囲気、ちょっとした反応を鋭く無意識の中でとらえている。その処理能力はなんと、11,000,000ビット/秒であり、無意識で感じる世界の処理能力は意識の世界の何と27万倍もあるのである。そのような人の見抜く力の前で人をだまし続けることは容易ではなく、ステイクホルダーとの信頼関係を勝ち取るには常に誠実であり、誠意をもって人と対峙する以外に手はないのである。誠実であることが人に伝わり、信頼関係も徐々に構築され、その信頼関係がプロジェクトの成功につながってくることになる。

さて、次にプロジェクトマネジャーの資質について、もう一つ別のデータをお見せする。

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Barry F. Posner: 1987, What it Takes a Good Project Manager, Project Management Journal

少しデータは古いが、これも米国のデータでプロジェクトマネジャーとしての重要な資質をプロジェクトマネジャーに尋ねたアンケートの結果である。この結果からもプロジェクトマネジャーとしての重要な資質が浮かび上がってくる。重要な点はプロジェクトマネジャーの能力として、最も資質として要求が低いものが技術力となっている点である。これは重要であり、ときどき、この結果を相反する体制をみることもある。プロジェクトマネジャーに求められるものは技術力ではなく、全体をまとめプロジェクトを成功に導く人間力である。そのために重要な資質しては、リーダーシップやコミュニケーションなどのヒューマンファクターのウエイトが高くなってくる。このようなヒューマンファクターの強い人はプロジェクトマネジャーの資質が高いと言えるが、このことはマネジャーの資質として全体的に言えそうでもある。

後編では、プロジェクトマネジャーと、プロジェクトリーダーの違いについて説明をしていく。