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Column

第19回 デシジョンツリーとプロジェクト計画

デシジョンツリーは意志決定手法として知られており、プロジェクトにおける不確実性をツリー構造にし、事象の発生確率とその事象発生時におけるプロジェクト成果を確率として分析し、効果的なプロジェクト投資意思決定を行うために活用されている。言い換えると、デシジョンツリーはプロジェクトのリスクを含めての投資対効果を見極めることで、プロジェクトの成功確率を戦略的に引き上げる手法でもある。

下図にデシジョンツリーの例と、その結果としてプロジェクト価値による算出の分布図を示す。図にあるように、プロジェクトのリスクを加味した獲得価値を示すことでプロジェクトが持つリスク・ベネフィットを俯瞰して明らかにし、意思決定者がより質の高い投資意思決定を行うことを可能にしている。

プロジェクトにおける意思決定において、デシジョンツリーをさらに高度化してリアルオプション手法をデシジョンツリーに組み合わせて使うケースもある。デシジョンツリーにおける意思決定ポイントに柔軟性を持たせ、その時の状況によって様々な活動オプションを決めることで、プロジェクト全体の成果を最大化しようとする手法である。下表に示すようにオプションは複数存在し、場合によっては組み合わせて使う場合もある。プロジェクトの意思決定が柔軟になることで、プロジェクトの価値をより大きくする可能性がでてくる。しかし、意思決定の現実を見た場合、物事をAll or Nothingで考えることは少なく、通常はより柔軟な意思決定が行われている。そのことを考慮すると、リアルオプションを活用した意思決定は現実に近い意思決定であるとも言えるが、残念ながらデシジョンツリーに比べるとより複雑性が増すことになる。また、通常、単にデシジョンツリーを利用したプロジェクト価値とリアルオプションで算出したプロジェクト価値を比較すると、リアルオプションを活用したプロジェクト価値のほうが大きくでることも知られている。

オプションの種類 内容
延期
(Option to Postpone)
不確実性の低下を待って、投資の意思決定を延ばしプロジェクト価値を高める
拡大
(Expand Option)
不確実性が高くても、成長を見越してプロジェクトに最小限投資し、状況を見て拡大する
縮小
(Option to Contract)
初期投資に比べて運営コストが高かったり、環境悪化の場合は規模を縮小する
撤退
(Abandon Option)
事業環境が悪化して、長期的に固定費が償却できない場合はプロジェクトを撤退する
段階
(Time to Build Option)
段階的にプロジェクトを進行させるように工夫しておき、環境が悪化した場合にはプロジェクトの延期、中断、撤退の選択権を行使する
転用
(Option to Transfer)
状況の変化に応じて、資産の転用を図る
中断
(Shut-down & Restart Option)
市場の変動により、プロジェクト運営で産出される製品やサービス価格が下落して変動費が収益を圧迫する場合には、回復するまで一時的に中断する
解約
(Cancellation Option)
プロジェクト契約に解約条項をつけておき、環境悪化の場合にリスクを最小限に抑える

デシジョンツリーの一般的な使い方は簡単に説明したが、デシジョンツリーの使い方はそれだけではない。非常に不確実性やリスクが高いが、なんとしても成功させなくてはならない社運をかけるようなプロジェクトにおいては、デシジョンツリーで投資するかどうかなどとは言っておられず、ある期間内でプロジェクトをやりきって成功までも持っていくことが必達の条件となってくる。このようなプロジェクトにおいてのデシジョンツリーの使い方を詳しく説明する。

ハイリスクプロジェクトの計画

プロジェクトにはリスクが付き物であるが、技術的な知見が無いプロジェクトや、過去にほとんど似た経験を持っていないプロジェクトでは、プロジェクト失敗確率は急に跳ね上がるものである。しかし、そのようなハイリスクのプロジェクトにおいて、プロジェクトの成功確率を高めるために特別なプロジェクト計画を行っているかというと、残念ながらそれはなく、その他のプロジェクトと同程度のプロジェクト計画を行っていることの方が圧倒的に多いことも事実である。もし、そのプロジェクトが部門横断的なプロジェクトであった場合、各部門で自分たちの担当の作業に対して、自分達の理解している中でプロジェクトは計画される。それが最後に組み合わさって調整され、結果としてプロジェクト全体計画として承認され実施されるという具合である。

そして、その多くの計画が想定どおり上手く行くだろうという楽観的な前提をベースとした ”プランA” のみであることが多い。通常のプロジェクトであれば、先に述べたデシジョンツリーのようにプロジェクトリスクを見極め、その結果プロジェクトにどう投資するかを検討すればよい。しかし社運をかけるようなプロジェクトにおいては、プロジェクトの成功確率を吟味するよりも、どうやればプロジェクトが成功するのかということの方が重要性を増す。このようなクリティカルなプロジェクトにおいては、成功確率を上げ、大きく成功しなくても(勝たなくても)、少なくとも失敗しない(負けない)プロジェクト計画を準備しなくてはならない。

そのようなクリティカルなプロジェクトの計画立案におけるデシジョンツリーの活用方法を説明しよう。

プロジェクトシナリオの検討

プロジェクトにおいてシナリオとは、プロジェクトの経過と結果を示すものである。プロジェクトのシナリオが自分の手の内にあるのか、シナリオは偶然の結果に委ねるのかで、プロジェクトの成果は全くと言ってよいほど大きく違ってくる。また、プロジェクトのシナリオは無制限に存在するものであり、決して一つのシナリオであることはない。さらに、プロジェクトの不確実性が高ければ高いほどシナリオの数は増してくるものである。このことを考え、ハイリスクプロジェクトが“プランA”というベストシナリオしか持っていないということは、そのプロジェクトはほぼ間違いなく失敗するといってよいほど危うい状態であることを理解する必要がある。プロジェクトで全てが都合よく進むことなど、めったにあるはずは無く、幸運だけに恵まれてプロジェクトが進むことを前提にしたプロジェクト計画ほど危ういものはない。そのプロジェクト計画は必ずといってよいほど、想定外の現実に引きずり回され混乱し、プロジェクトは意図しないシナリオで“失敗”の谷に向かって突き進むことになる。

プロジェクトを成功させるには、現実を直視することが重要である。世の中、それほど良いことが立て続けて起こるほど甘くは無く、期待しないことも起こるものである。リスクマネジメントはその予期せぬものを洗い出し、計画に反映する手法である。しかしそれ以前に、プロジェクトのリスクを見極め取るべきシナリオを複数検討し、少々の不幸が起こってもプロジェクトが失敗の谷には落ちないようにしなくてはならない。それを可能にするための、次の4つのプロジェクト計画の手順について説明する。

  1. 事前準備
  2. クリティカルポイントの明確化
  3. クリティカルポイント対応策の検討
  4. 実現性の検討

事前準備

事前準備で必要なことは、プロジェクトの目的と達成すべき目標を明らかにすることである。しかし、単なる目標設定ではなくプロジェクトが最低限満たすべき成功の条件をクリアにしなくてはならない。なぜなら、プロジェクト計画は幸運を頼みにした大勝の計画を立てるのではなく、もっと現実的に、最低限負けないプロジェクト計画を立てる必要があるからである。成功の姿には様々な姿が存在し、予想以上の成功もあれば、普通の成功もあるし、小さな成功も存在するであろう。しかし、企業にとっては、どのような成功であってもプラスに働くことは間違いなく、何らかの価値を生むことになる。その意味でも負けない(失敗しない)計画はとても重要な意味を持つ。では、負けない計画はどうやって立案するのかであるが、そのためには負けない条件というものを明確にしておかなくてはならない。プロジェクトが負けないために、何をクリアしなくてはならないのかである。その中には、期間的な条件、機能的な条件、予算的な条件、質的な条件などいろいろ考えられるとは思うが、これを最低限満たせばよいという条件を明確にすることが、プロジェクトシナリオに柔軟性を持たせ、タフなプロジェクト計画を立案することを可能にする。最初の段階は、プロジェクトの達成すべき目標値と、最低限クリアすべき条件を明らかにするところから計画立案が開始されることになる。

クリティカルポイントという言葉を知っている人は非常に少ないと思われるが、物理学では臨界点として知られている。つまり、ある変数が臨界点を超えてしまうと、あとは制御できなくなってしまう 「引き返し限界点」 という意味を持っている。我々は、プロジェクトシナリオを作る場合、そのプロジェクトにおけるクリティカルポイントを明確にすることから始める。我々の言うクリティカルポイントとは、単にプロジェクトリスクとは違って、その事象が起きるとプロジェクトそのものが成り立たなくなる可能性が大きい、プロジェクトの成否に直結するリスクを含んだ事象と定義している。ハイリスクのプロジェクトにおいては、このようなクリティカルポイントが幾つか存在しているものである。大体のプロジェクトは、このクリティカルポイントをある程度意識して全体のプロジェクト計画が立案されるが、クリティカルポイントへの耐性はそれほど高くないケースが非常に多い。

このステップで重要なことは、プロジェクトが潜在的に抱えるクリティカルポイントには何があって、そのクリティカルポイントで発生した事象に対してどのような対応策が可能なのかを洗い出すことである。クリティカルポイントを吟味していくと、その時点で発生した場合には対応できずプロジェクトは失敗してしまうが、事前に最悪のケースを想定して進めていた場合には、最悪を回避し進めることが可能な場合が多い。つまり、最悪のシナリオベースに計画が作られていれば、最悪の事態は避けることができ、ベストではないがプロジェクトの成功に導く可能性が高いことがわかっている。

また、クリティカルポイントが複数存在する場合は、その発生のタイミングをもとにデシジョンツリーを作ると良い。デシジョンツリーを作ることで、クリティカルポイントの全体像が明確となる。それをもとに対応策を検討することで、どのようなプロジェクトシナリオが可能なのかを明らかにすることが可能となる。クリティカルポイントを連携したデシジョンツリーこそがプロジェクトシナリオなのである。また、その複数シナリオに対してどこまでプロジェクト計画が成り立つかどうかを検討することが、ハイリスクプロジェクトにおけるシナリオプラニングであり、そのカバーできるシナリオが多ければ多いほどタフな計画となってくる。 下図に、参考としてデシジョンツリーの例を示す。

最後に実現性の検証について説明する。シナリオが時系列的に成り立つかどうかを検証しなければ、プロジェクト計画としては成立せず、絵に描いた餅となる。そのためには、クリティカルポイントにおける発生事象全てに対して、プロジェクト計画が成り立つのかどうかを確認するしか方法が無い。全てを一つ一つ確認することがベストであるが、それほど計画立案に余裕がないことも多いので、簡易なやり方をお教えする。 多くの場合、全てのシナリオを時間的制約も含めてクリアすることは難しい。いくつかは、どうしてもクリティカルポイントの結果によってはプロジェクトを成功に導けないことも発生する。ある意味ではシナリオの数がプロジェクトの持っている本来の成功確率であると言える。プロジェクト計画においては、それらの成功の可能性をもったシナリオの中で最も時間を要するものに対し、リソースの検証を含めて時間的に間に合うかどうかを検証すると良い。他のシナリオはそれよりも期間的には余裕のあるシナリオなので、たとえ何か発生してもある程度の吸収が可能なはずである。時間的に最も厳しいシナリオをもとに検証することで、計画のタフさも確認できるのである。ただ、計画においては、デシジョンツリーで示されたクリティカポイントをマイルストンとして示しておく必要がある。そのタイミングがくれば意思決定を行うことを明示し、結果次第では再計画を行う必要が発生するからである。このように、複数のシナリオをカバーできるプロジェクト計画こそが、根拠に裏打ちされ、かつ柔軟性を兼ねたプロジェクト計画と言うことができるのである。