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Column

第18回 プロジェクト計画

プロジェクト計画の重要性については、多くの人が理解を示す一方で、プロジェクト計画に充分な時間を使っている人はそれほど多くない。そのことは、これまで筆者が10年近くMOTなど講義を通じて受講者に次の二つの質問をすることで確かめてきた。

  1. プロジェクトにおいて計画は重要だと思いますか? Yes:95%以上
  2. プロジェクト計画に充分な時間を使っていますか? Yes:30%以下

プロジェクト計画が重要と思っていない人数は全体の僅か5%以下であるが、その人達は100%プロジェクト計画に十分な時間は割いていなかった。また、その人達の最も多い言い分は、プロジェクトの状況がどんどん変化するので、計画を立てても意味が無いというものであった。一方、全体の95%以上の人達はプロジェクト計画が重要であると答えているにも関わらず、プロジェクト計画に十分な時間を取っている人は30%にも満たない。このギャップはあまりにも大きいが、そのギャップこそが多くのプロジェクトで発生している問題の根幹であり、プロジェクトが失敗する最大の原因の一つに他ならない。

ここではプロジェクト計画の持つ意味と、なぜプロジェクト計画に充分な時間が使われないのかについて解説することにしよう。

計画の重要性

プロジェクトマネジメントにおいて一般にプロジェクト作業量からの視点から、計画2割、実施8割と言われているが、プロジェクト重要性の視点からは計画8割、実施2割と言われている。このように計画がプロジェト成功の重要な要素であるにもかかわらず、プロジェクト計画に充分な時間をかける人が少ないことも事実である。

少し古いが、下図にNASAにおけるプロジェクト計画の実態を示す。このデータは、横軸にプロジェクト計画に費やした費用の割合、縦軸にプロジェクト予算に対する予算超過額の割合を示している。図の中には、対数式によるデータへの近似式が示されているが、その近似式は1%以下の有意水準値となっている。この結果、プロジェクト計画にかける費用とプロジェクト予算の超過には明らかな相関が存在していることが示されることになるが、それをもう少し実感として分かりやすくするために、プロジェクト計画の値を5%分割で平均値をとり、それがどのようになるのかを示すことにした。この図からわかるように、プロジェクト計画に費やした計画費用が5%未満の集団の平均値は2.7%に対して、プロジェクト超過コストの平均は76・5%となっている。また、計画コストが5%~10%の集団については、平均計画コストは7.3%に対して平均超過コストは20.4%となっている。この数字を見てもわかるように、計画段階で時間を充分時間を使わなかったプロジェクトが、プロジェクトの総コストにどのように跳ね返るのかがデータとして見えてくる。このデータはNASAのデータではあるが、プロジェクトマネジメントにおける原理原則を示しているものであり、押しなべてどのようなプロジェクトにおいても当てはまるものと考えられる。計画の手抜きには、大きなしっぺ返しが待っていることがおわかり頂けたことかと思う。

米国NASAにおけるR&Dプロジェクトの計画フェーズコストとプロジェクトコスト超過の相関関係

(出典)Gred Githens, “Financial Models, Right Questions, Good Decisions”
PM Networks July 1998 Volume12, Number7

計画への真剣さ

計画が重要と理解しながらも、計画に対して充分な時間を使えていない点に関して、その原因をもう少し深く掘り下げてみることにする。多くの企業では“競争”の名の下に時間というプレッシャーの中でプロジェクトが推進されている。プロジェクトで守るべき納期がプレッシャーとしてプロジェクト関係者にのしかかり、少しでも早くスタートして納期を遵守しようとする心理的状態が蔓延している。しかし、プロジェクトの現場はもっと複雑であり、さらにひどいケースも時々見かける。例えば、プロジェクトが開始する前からとても納期など守れないと分かっていながらも、その不可能な納期に対して十分な検討を行うこともせず、できる根拠も持たず、プロジェクトがその納期を目指して進められるのである。プロジェクト計画はプロジェクト成功のシナリオであるが、なぜ、プロジェクト成功のシナリオを持たずにプロジェクトは開始されるのであろうか。論理的に理解しがたいものがあるが、この論理的な根拠を無視したプロジェクトが後を絶たず、失敗を繰り返すことも事実である。この問題を解決するには、その本質的な原因を知ることが重要であるので、その部分を少し掘り下げていくものとする。

上記のようなプロジェクトの実態になっている理由を突き詰めていくと、大きく一つの原因にたどりつく。そして、その原因は非常にシンプルな質問で問いかけることで、明らかになってくる。その質問とは、“プロジェクトが失敗したときに、あなたはどうなりますか”という質問である。この質問に対して、上司や客から怒られるとか、査定に響くとか、評判を落とすとかの回答は返って来るが、自分の命が危険にさらされるとか、自分のこれからの人生が危うくなるといった回答はまず出てこない。つまり、プロジェクトが失敗しても自分の命の危険性があるとは感じていないのである。なかには、失敗しても仕方が無いと思ってプロジェクトを引き受けるケースさえある。下図を見て欲しい。ヒマラヤの絵である。もし、冬のヒマラヤを登るプロジェクトに参加するとなったら皆さんはどうするだろうか? 情報が集まらないといって、適当な計画で登山を開始するだろうか?山の天候はすぐ変わるので計画を立てても仕方がないので詳細な計画は立てる必要はないと言うだろうか?

ヒマラヤプロジェクト計画とは
「想定される不確実性に対して十分な耐性をもち、明確な根拠のもとに実行可能性が担保された活動シナリオであり、誰もがプロジェクトの成功を感じ取れるもの」でなくてはならない

冬のヒマラヤ登山となると失敗すれば命はないことは、誰でも容易にわかることである。そして、自分の命がかかっているとわかっている場合には、人は決して安易な判断や行動はしないものである。情報が集まらなければ、友人、知人などありとあらゆるつてを使って情報を収集しようとするだろうし、厳しい登山に耐えられるように自分の体力をつけるための努力をするだろうし、体力や天候などを考えて登山のペース配分を細かく計画するであろう。このように自分でできることは全てやって、登山に望むことであろう。つまり、自分の命がかかっているとわかっている場合には、計画と段取りに十分な時間を使うのである。この意識の差が、プロジェクトの計画に対する甘さとなっていることが実態なのである。

さらに突き詰めていけば、計画に時間を使う姿勢と自分がプロジェクトから受ける影響の大きさには関係があるようである。計画に時間を使うかどうかは、どれほどプロジェクトを成功したいのか、プロジェクトでの失敗は自分にどれだけ跳ね返ってくるのか等、プロジェクトの成立条件に関わる部分と自分との間に大きな関係が存在することを理解する必要がある。プロジェクトを失敗したくないのであれば、プロジェクトを成功させるための条件闘争を少なくともプロジェクトリーダー自ら行うべきであろう。

計画立案手順

最後に計画立案の正しい手順を説明しておく。下図に正しいプロジェクト計画の一連の流れを示す。

  1. プロジェクトの目的の明確化
  2. WBSの作成
  3. WBS項目の期間・費用・資源の見積もり、責任の明確化
  4. タスク手順(コンストレイント)の定義
  5. 作業スケジュールの立案

コラム第18回 図3

だが、上記のような手順でプロジェクト計画を立案しているケースは残念ながらほとんど見ることはない。通常は、最後の第5ステップである“作業スケジュール立案”にいきなり入って計画を立てるやり方が圧倒的に多い。通常、第5ステップにいきなり入るやり方ができるプロジェクトは、過去何度も経験してきたプロジェクトや難易度の低いプロジェクトに限られる。プロジェクトでやるべきことやプロジェクトのリスクがほとんど見えており、確実にその予定で実施できるリスクの低いプロジェクトである。規模が大きかったり、難易度が高かったり、不確実性や新規性が高いプロジェクトで、いきなり第5ステップから入ると失敗する確率が格段に高くなる。

複雑な問題に対する問題解決手法の王道というものがある。そのやり方は、思考の発散と収束を何度か繰り返すことが基本である。第2ステップと第5ステップを見比べると、その違いがわかるかと思われる。第2ステップのWBSの作成は、どこにも制約条件を規定しておらず、自由にプロジェクトを成功させる作業を洗い出すことができる。つまり、第2ステップは発散のステップであり、プロジェクト関係者が自分達の経験をもとに自由に発想し最適な作業を求めるステップでもある。一方、第5ステップは時系列でスケジュールを確定させるステップであるが、プロジェクトの納期という制約条件の中でプロジェクトを成立させなくてはならない、収束のステップそのものである。いきなり第5ステップから開始すると、思考が収束的になり新しいアイディアは出てこない。新しい視点、アイディアを出すには制約条件のない第2ステップが最適なのである。しかし、第2ステップで洗い出したWBSを第4、第5ステップでの制約条件でチェックした場合、間違いなく最初は制約条件をクリアすることはないであろう。しかし、それで良いのである。制約条件をクリアしなければ、また第2ステップに戻り、制約条件をクリアするようなアイディアを出す。それらを実現リスクも含めて検討し、再度第4、第5ステップにもどり収束するかを確認する。このような手順を2,3回繰り返すことでプロジェクトは仔細に検討され、計画のリスクもあきらかになり実行可能性が高まっていくことになる。このように、タフな計画とは様々な観点から検討され実行可能性を検証された計画であり、故に計画立案には時間を要すものなのである。

このように、発散と収束を繰り返すことで、プロジェクトの実施内容の理解やリスクも明らかになり、そのための対応や準備も行えるようになる。このようなタフな計画ができて初めてプロジェクト計画となる。

希望的観測で作成した計画はプロジェクト計画でなく、ただの夢物語と理解して欲しいものである。プロジェクトが成功するには、それなりの根拠が無くてはならない。