イノベーションマネジメント株式会社は、企業の継続的なイノベーションを支援いたします。戦略的な事業の仕組みを構築し、多くの実績を活かしたプロジェクトマネジメントシステムをご提供します。

Column

第14回 コミュニケーションマネジメント

プロジェクトを成功に導くためにコミュニケーションの果たす役割は非常に大きい。しかし、コミュニケーションは人の活動の中で自然に行われるものであり、誰もが普通に行う行為でもある。人間活動を行っていくための必要な行為であるにもかかわらず、コミュニケーションに関する問題が後をたたないことは誰しも感じていることだと思われる。

しかし、コミュニケーションの問題は今に始まったことではなく、大昔からその難しさについては認識されていた。古代ギリシャのストア派の哲学者であるエピクテトス(AC. 55  AC138) はコミュニケーションの難しさを理解して次のような名言を残している。

「神は人間に一つの舌と二つの耳を賦与したるは、しゃべるよりも二倍多く聞くためなり」

コミュニケーションの目的

このように、コミュニケーションが容易ならざるものであることは大昔から知られてきたが、プロジェクトにとってコミュニケーションの目的とは何であろうか?この点を少し考えてみることにする。コミュニケーションの目的を訪ねるとよく、“お互いを理解するため”、“相手に伝えるため”という言葉が帰ってくる。私は個人的にも、コミュニケーションの目的は“相手に正しく理解してもらうため”というふうに思っていたし、そのためには相手が主体でありどうやって正しく理解してもらうかという点をコミュニケーションのベースに考えていた。

しかし、あるコンサルタントから少し違う意見を聞いて、それ以来コミュニケーションについての目的を違ってとらえられるようになった。そのコンサルタントはコミュニケーションの目的を“相手が自分の期待するように動いてもらうため”と定義していたのである。“理解”はゴールではなく、最終ゴールである “期待する行動”に達するための途中経過にしか過ぎないと言い切っていたのには驚らされたが、なるほどと感心もした。確かに、そのコンサルタントが言うように、相手が自分の意図とする方向に行動してもらえなくてはプロジェクトの成果が出ないであろう。また、“理解”をゴールに置くか、“行動”をゴールに置くかでコミュニケーションの内容や伝え方も違ってくるはずであり、相手の行動をゴールにおくと、否応なしに深いコミュニケーションを考えざるを得なくなってくることも確かである。相手にどのように動いて欲しいか、そのためにはコミュニケーションの伝達手段、タイミング、メッセージの出し方など、多くのことを自ずと考えなくてはならなくなる。是非とも、行動を目的においたコミュニケーションを意識して頂きたいと思う。

メッセージの伝わり方

次にコミュニケーションの伝わり方を少し考えてみることにする。コミュニケーションに関する有名な禅問答として、「誰もいない奥深い森で一本の大木が倒れたとき、どのような音がしたのであろうか」という問いに、「聞く者がいなければ音はしない」と返すものがある。全てにおいて相手がいなければ、コミュニケーションそのものが成り立たないことを意味した、コミュニケーションの本質をついた格言であるが、人は何によって相手とのコミュニケーションを成立させているのであろうか?

コミュニケーションといわれて真っ先に思い浮かぶのは、コミュニケーションに不可欠となる“言語”であろうが、どれほど人は”言語“によって正しくメッセージを伝えているのであろうか? ここに米国の心理学者であるアルバート・メラビアンが実験によって導き出した有名な法則がある。1968年に導き出された結果であるが、この結果から人がメッセージを受ける割合は、言語が7%、声の響き(聴覚)が38%、顔の表情(視覚)が55%となっており、人は言語を中心にメッセージを受けとっているのではなく、音や映像を通してメッセージを受け取っていることが良くわかる。

実際に、ある顧客においてこのメラビアンの法則があてはまる結果を目の当たりにしたことをよく覚えている。

ある企業の業務変革のコンサルティングを行っていたときのことであるが、顧客が部長会の議事録をICレコーダーをもとに書き起こしていた。しかし、その顧客が議事録のある部分で非常に困った顔をして悩んでいたので、どうしたのか尋ねたところ、ここを読んでみて欲しいと言われ議事録を手渡された。

その内容を見て驚き、これで部長会は問題なく終わったのかと、その顧客に尋ねると、顧客は何も問題なく穏やかに終ったと言うのである。しかし、議事録を見てみると、ある女性の部長が、別の男性の部長に対して“無能”呼ばわりしている内容がずらずらと書き連ねらねられているのである。これほど相手のことを“侮辱”に近い批判をして、よく部長会が問題にならなかったなあと不思議に思い、ついでにICレコーダーをそのまま聞かせて欲しいとお願いして、会議の内容をそのまま聞かせてもらった。すると、男性の部長を“侮辱”に近い内容で批判しているところが出てきたが、女性の部長の話し方はすごく穏やかで柔い言葉で批判しているので、レコーダーを聞く限りはそれほどひどいと感じなかったのである。さらに、話す表情が穏やかであれば、批判されている男性の部長もそれほど悪く受け取らないだろうと容易に想像できた。 しかし、トーンも表情も消された、言語だけの議事録となると、そうはいかない。その内容だけで、メッセージを受け取ることになってしまうのである。

その後、その顧客といろいろと相談して、その“侮辱”に近い部分は結局、議事録から抹殺することにした。そのまま書いて、部長と役員に議事録を回したら、どんなことが起きそうか容易に推察されたからである。

コンテキスト

コミュニケーションを考えるときに最も注意しなくてはいけないことは、相手の状況をどれだけ理解しているかである。相手の知識がない、先入観が強い、性格が気難しい、忙しすぎで時間がない等、相手の状況を理解しないとメッセージが正しく伝えられないからである。その中で一つ重要なキーワードとして“コンテキスト”という概念を理解する必要がある。コンテキストを正しく日本語に翻訳することは難しいが、一般には「文脈」、「前後関係」、「背景」などと訳される。コミュニケーションの場で使用される言葉や表現を定義付ける背景や状況そのものを指すものであり、コミュニケーションを成立させる共有情報を意味している。そして、このコンテキストは国によっても大きく異なる。コンテキストの高い国としては日本、韓国、アラブ諸国などがあげられ、逆にコンテキストの低い国としてアメリカ、ドイツ、スカンジナビア諸国などがあげられる。

実はコンテキストが高いことは強みである。なぜなら、お互いの意思疎通が容易であり、少ない言葉で正しくメッセージが伝わるからである。 日本語のような曖昧な言葉でも、日本人同志がコミュニケーションを正しく行えるのは日本人が非常に高いコンテキストを持っているからである。一方、低コンテキストの文化では、正しくメッセージを伝えるためには、正確に言語を駆使して説明していかなくてはならない。同じメッセージを伝えるにしても多くの言語と時間をかけなくてはならないのである。ある意味では弱みであるが、ものごとをロジカルに正しく伝えるスキルは身につくことになる。欧米人が日本人に比べロジカルで物事を考えコミュニケーションをとるのは、このようなコンテキストの差によるところが非常に大きいと考えられる。

高コンテキストの文化は強みであることは事実で あるが、それは高コンテキストのコミュニケーションが成立する環境にいることが大前提である。例えば、同じ高コンテキストでも違う種類の高コンテキストであったり、高コンテキストと低コンテキストが混ざったりした場合は、残念ながら高コンテキストのコミュニケーションは成立しない。正しくメッセージを伝えるためには、全員が低コンテキストにならざるを得ないことになる。欧米人はもともと低コンテキスト文化なので、低コンテキストでコミュニケーションをとることには慣れているので問題ないが、日本人は高コンテキストに慣れているため低コンテキストでコミュニケーションをとることは不得手である。 このことを理解せずに高コンテキストの意識のままでコミュニケーションをとると様々な問題を起こすことになる。他部門、社外、海外などコンテキストが違うと想定される人たちとのコミュニケーションをとる必要がある場合は、双方のコンテキストの適用レベルを充分確認したうえで、意思疎通を図ることを是非お薦めしたい。

コミュニケーションモデル

コミュニケーションには、いくつかのモデルが存在するが、その中でもシュラム(Schramm)のモデルは有名であり、コミュニケーションがどうやって成立するのかを理解するにはわかりやすい。

下記に、2者の間でコミュニケーションを行うときの状況を図に示している。発信者(X)は受信者(Y)に対して、伝えたい内容をメッセージ(A)として送り、それを受信者がメッセージとして受け取り、受信者の解釈エンジンをもとにメッセージを翻訳して、自分なりに理解する。発信者(X)は自分が出したメッセージがどのように解釈されたのかは、この時点では分かりようが無い。解釈エンジンはあくまでも受信者手側の解釈エンジンで行われ、発信者の解釈エンジンは使えないというのが現実である。 次に、Yは解釈に対してメッセージをXに送ることになり、発信者と受信者の立場は逆転する。新たな発信者(Y)は、どのように解釈したかをメッセージ(B)として新たに受信者となった(X)に送りつけることになる。このメッセージ(B)を受け取って初めて、Xは自分の出したメッセージがYにどのように解釈されたのかがわかることになる。

これが、シュラムのコミュニケーションモデルであり、コミュニケーションの主人公はあくまでも受信者であり、どれがどのように解釈されるかは、受信者の持つコンテキストと解釈エンジンに大きく左右されることがお分かりになったと思われる。

また、両者のコミュニケーションが繰り返して行われることで、お互いの持つコンテキストがどのようなもので、解釈エンジンのロジックがどのように行われているのかをお互いが徐々に理解するようになる。この相互のコミュニケーションが多いほど、お互いのコンテキストの内容を知ることができ、さらには双方で共有できるコンテキストのボリュームも増えることになる。プロジェクトにおいて、コミュニケーションをとりやすくするために、プロジェクト関係者を一同に集めるようなこともあるが、これはコミュニケーションの密度を増やして共有するコンテキストを増やすことに大きく寄与することになる。

コミュニケーションタイプ

どのようなコミュニケーションをとっても、100%満足いくコミュニケーションを達成することは困難である。 結局、充分理解されなかったり、充分感じてもらえなかったり、何かが伝えきれていなかったり、どこか不充分さが必ず残るものである。これは、自分と相手という違った人間がコミュニケーションをとる以上、相手に自分が理解して感じているものと全く同じレベルで理解し感じてもらうことは不可能であるということに起因する現実である。したがって、ベストなコミュニケーションを追い求めても達成することは無く、存在するのはベターなコミュニケーションだけだというシビアな現実を受入れた中で、コミュニケーションのあり方を考えなくてはならない。そのベターの合格ラインの見極めがとても重要であり、そのためにもコミュニケーションの目的達成を判断基準として常に意識することが必要となる。

さて、プロジェクトにおいてのコミュニケーションには大きく二つのタイプが存在する。一つは、リーンコミュニケーションと言われるもので、一方通行のコミュニケーションである。発信者から受信者に一方通行でメッセージを伝えるやり方で、ホームページやメールなどのコミュニケーション手段がそれに該当する。もう一つのコミュニケーション手段は、リッチコミュニケーションと呼ばれるもので、その場で双方向のやり取りが可能なコミュニケーションである。電話、会議、ワークショップ、面談などがそれに該当する。どちらのコミュニケーションも必要なコミュニケーション手段であることは間違いないが、使い方には注意する必要がある。

リーンコミュニケーションは複数の人に同時に同じメッセージを伝えるときには有効であり、また時間差があってもコミュニケーションができるので時間的な制約はほとんどなくコミュニケーションをとることができる。しかし、一方通行のコミュニケーションであるため繊細な内容や質問が多く出そうな複雑な問題などを伝えるには不向きである。逆にリッチコミュニケーションは、質問があってもすぐに対応でき補足できるので、難しい内容の理解には適したコミュニケーション手段であるが、時間的な制約が大きなコミュニケーションである。このように、コミュニケーション手段の持つメリット・デメリットと自分の与えられた時間を充分考えて、リーンとリッチのコミュニケーションを使い分けていくように心がけたいものである。