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第2回プロジェクト

NHKの人気番組となったプロジェクトXなど、今では「プロジェクト」という言葉はいたるところで使われ、誰もが普通で理解するようになったが、20年前までは「プロジェクト」という言葉はまだ日本においては充分認知されておらず、理解していない人も多かったことをご存知の方はどれほどいるのであろうか?

この「プロジェクト」という言葉の認知度とともに、プロジェクトマネジメントも徐々に国内でも受け入れられるようになったが、マネジメントすべき対象であるプロジェクトそのものを正しく理解することはとても重要である。プロジェクトの持つ意味、目的を正しく理解することが正しいマネジメントの姿を映し出す。

  1. 独自性がある
  2. 有期的である
  3. 不確実性が高い

この3つの属性より、プロジェクトが何か特別な目的を達成するための活動であることは読み取れる。だが、普通の仕事とどのように違うのであろうか?それを知るためにはプロジェクトと対極の仕事と比べる必要がある。プロジェクトと対極の仕事は「定常業務」いわゆるルーチンワークである。企業においては、「普通業務」「通常業務」などとも呼ばれ、いわゆる本業を意味する場合が多い。

では、定常業務とプロジェクトの線引きはどこにあるのであろうか?実際のところ、明確な線引きなどは存在しないというのが答えである。その線引きは企業ごとに違うし、さらに言えば時代とともに違ってくる。

例えば製薬業界において15年前までは、多くの企業で医薬品開発はプロジェクトではなく、定常業務として行われていた。各ライン組織は製品開発の一部を担い、それぞれの組織での調整を行いながら医薬品開発が行われたいたのである。プロジェクトという認識はそれほどなく、定常業務として自分が医薬品開発の一部の仕事を担っているという感覚で医薬品が開発されていた。

しかし、製薬業界での開発競争が激しくなるとともに、イノベーションとスピードに対する重要性が増し、イノベーションを引き出し、スピード化できるやり方として、定常業務はプロジェクト化していった。2009年の現時点で、製薬業界で医薬品開発をプロジェクトと呼んでいない企業は皆無に等しいが、15年前はプロジェクト呼んでいる企業はほとんどなかったことを考えるとその違いは大きい。

製薬業界における経緯をとおして理解できることは、企業としてやるべき業務(医薬品開発)は明確に定義できるが、それをどのように(定常型かプロジェクト型か)実施するかはオプションであるということである。どちらが良いか悪いかという問題ではなく、その時代環境、その企業文化に対してどちらが適切かということだけなのである。このことを理解するには、企業が常に求められる2つの要求に対する理解が不可欠である。それは企業が存続していくために常に求められていることであり、その要求の強弱は変化してもなくなることはない。それは、「効率:Efficiency」と「効果:Effectiveness」であり、ともに企業にとって重要な要求である。この二つの要求に対する適切な業務スタイルを考えた場合、定常業務は「効率」を追求するには向いた業務スタイルであるのに対して、プロジェクトは「効果」を追求するには最適な業務スタイルとなる。この二つは企業全体におけるバランスは変わるにしても常に存在し続けるものである。例えば、生産現場のように確実に生産が可能である環境においては、いかに高品質の製品を効率良く生産できるかが競争力のベースであり、このような環境では効率に対する要求が支配的となり、業務スタイルも定常業務型が適切となる。一方、イノベーションを求める製品開発においては、効率化がそのまま成果に結びつくどころか成果を阻害する要因にもなりかねない。重要なことはどうやれば成果が出せるかであり、場合によっては効率を重視することで成果が出るだろうし、場合によっては効果を追求することで成果がでるであろう。

重要なことは、成果を出すためにはどのような業務モデルを構築して戦っていくかにつきるのである。そのためには、次の3つの疑問に対して自問自答できなくてはならない。

  1. 現在のビジネス環境は何が重要な差別化要因となっているのか
  2. 効率によって得られる成果は何か
  3. 効果によって得られる成果は何か

このような視点から、定常業務を主体として業務モデルを構築すべきか、プロジェクトを主体として業務モデルを構築するかを考えなくてはならない。細かく言えば、全体成果の獲得をベースに企業のバリューチェーンを見直し、それぞれのバリューチェーンに対しての適切な業務モデルを構築することが望ましく、その業務モデルもビジネス環境の変化に追随して見直し・改善することが唯一企業競争力を維持する秘訣であろう。

また、近年は市場環境の変化や企業間の競争は激しさを増してきており、このような競争環境の激しさが企業によりイノベーティブな製品を求めるようになってきている。これは時代の要請であり避けることはできない。今後しばらく、この環境変化が変わることを想像しがたく、ますます厳しさを増す方向に向かうことであろう。この環境の変化は今後、効率以上に効果を追求する業務モデルを求めていくであろうし、その中でプロジェクトの役割も益々重要性を増し、プロジェクト型の業務モデルへの移行が多くの業界で進んでいくと思われる。

だが、効率の重要性も決してなくなることは無い。重要なことはバランスなのである。プロジェクトの軸を意識しつつ、組織効率を改善する新しい業務のあり方が今の企業には求められるのである。