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Column

第11回 調達マネジメント

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)では、調達マネジメントとしてプロジェクトで調達する製品やサービスすべてを、どのように計画して調達するかをスコープ定義から調達先の選定、契約、そして納品までをプロセスとして述べている。しかし、ここでは個別のプロジェクトでどう調達するかというよりも、企業としていかに競争力を高めるための調達を実現していくかという、組織レベルでの調達マネジメントのありかたをテーマとしてお話しする。

これは、個別の調達の話であればどの業界・企業で普通にやっており、大企業では調達専門の部門が存在して、コスト、品質、納品などの管理を組織として徹底的にやっているところもあり、別段特別に話す必要も感じられないからである。しかし、調達ルートの構築や安定的な低コスト、高品質の製品やサービスの提供、さらにはプロジェクト全体最適のための調達となると別である。これは個々のプロジェクトや既存の調達業務の範疇を大きく超え、戦略的な視点でのアプローチが不可欠であり、企業としての戦略的な思考と取組みが必要となってくる。 特に、調達ルートの存在の有無は、企業の根本的な競争力の差となり、ボディーブローのように全てのプロジェクトに対して影響を与え、ひいては企業そのものの業績に大きく影響を与えるようになってくる。今日のように、ビジネス環境が大きく変化する時代において、全てを自社で賄うことは多くの無駄を生むことに等しく、何を自社で行い何を他社に求めるか、戦略的な調達の意義はますます重要になってきている。調達についての戦略目的は、どの業界・企業も同じであり、「いかに品質の高い物やサービスを安定的に安く供給できるか」ということに尽きるかと思われる。 しかし、この実践方法においては、業界・企業によってそれぞれ工夫したやり方を行っており成果を出している。ここでは、それぞれのやり方を事例的にお話しすることで調達マネジメントのエッセンスを理解することに役立ててもらいたい。

集中購買

プロジェクトで調達すべきものを明確にして、プロジェクトの要求に合致する調達先をプロジェクトマネジャーの判断に基づいて選定し調達を行うのが、プロジェクトを主体としたエンジニリアリング業界や建設業界の一般的なやりかたであるが、このやり方は効率と言う点で問題が出てくる。これと対照的な調達方式は、製造業にあり、調達先はある程度選定した中で、生産に必要なものを毎月(又は毎週の場合もあるが)必要数量発注する方式をとっている。

集中購買とは、購買数量を大きくすることでバイイングパワーを増し、そのパワーをもとに調達先との価格交渉を有利に進め購買価格を低減させるやり方であり、一般製造業ではよくやられている方式であるが、徐々にこの方式は建設業などの他の業界などにも取り入れられるようになってきた。

しかし、この方式を実現するには3つの重要な部分をクリアーしなくてはならない。1つ目は、プロジェクトマネジャーの発注権限の制約である。集中購買は企業レベルで行わなければシナジー効果は薄い。そうなるとプロジェクトマネジャーの持つ発注権限をそのままにしておくと、調達先との交渉が難しくなる。集中購買を行う品目を明確にする必要があるが、集中購買対象品目に対しては、プロジェクトマネジャーの発注権限を調達部門に移すことが必須となってくる。2つ目は、標準化である。プロジェクトで利用するものがどれもバラバラとなると、調達における数量効果は期待できない。同じものを大量に発注してこそ調達先も量産効果を上げることができ、コストダウンを実現し製品の単価を下げる交渉にものれるということになる。そのためには、調達物の仕様などを統一しておかなくてはならず、調達品に対する標準化は不可欠となってくる。3つ目は情報である。たとえ安く調達できたとしても、工事のスケジュールに間に合わなければ意味がない。調達品が遅れることで工事が遅れれば、調達品のコストダウンとは比べ物にならないほどの工事のコストアップが発生しかねないことになる。調達品が工事のスケジュールに合うように手配するには、精度の高い情報を全てのプロジェクトから収集することが求められる。その情報を定期的に集約し、集約単位で調達先に発注し各工事先に納入することが可能となるのである。

プリファードベンダー

近年のプロジェクトにおいては、人的リソースの確保が大きな課題となってきている。質の高い優秀な外部リソースの確保は企業の競争力にも大きな影響を与えることもある。モノの調達であれば、価格は少し高くなるかもしれないが、競争相手と同じ調達先を使えば同じ品質のものを購入することは可能である。しかし、人的リソースとなるとそうは行かない。調達先のリソースの要員が限られることと、どの企業でも同じことであるが優秀な人材も限られているからである。リソースの優劣はプロジェクトの成果に大きく影響を与える。特に外部リソースの依存度が高くなってきている製薬業界や組み込みソフト業界は、外部リソースの安定供給は重要な課題となっている。

その中で製薬業界の先進的な企業の取組みとして行われているやり方が、プリファードベンダー方式の要員調達である。プリファードベンダーとは、企業として戦略的に特定のベンダーを活用することで、優秀な人材の確保と費用の低減を狙ったやり方である。ベンダーとは、プロジェクト個別に交渉せずに、企業間での交渉を基本として行う。年間に発生するプロジェクトを想定し、そこで必要とするスキルごとの要員を算定し、その数量をもとにベンダーと価格と要員の手配を交渉することで全体的な費用を抑え優秀な人材の確保を行うのである。 これを行うには、発注側はある程度の精度で年間の業務量を予想し、特定のベンダーに発注する予定の業務量を提示することが必要となってくる。一方で、このやり方はベンダー側にも大きなメリットが生まれる。第一に、安定的にビジネスを獲得できるという大きなメリットが出てくる。受注産業であるベンダーのビジネスはプロジェクトに依存する変動収益を基本としたビジネスであり、基本的に不安定なビジネスである。このような変動収益が基盤となっているビジネスは経営的な安定度はどうしても低くなる。経営的な安定を獲得するには、固定収益の比率を増やすことが最も有効な手段であり、プリファードベンダーに指定され、安定的な収益を確保できることは非常にメリットが大きい。次に重要な点は、要員の収益生産性を大幅に高める点である。プロジェクトベースの受注モデルのビジネスにおいては、受注活動に非常に大きなエネルギーを費やされることになる。受注活動は受注して始めて成果につなげることができるが、失注すれば全ての活動費は無駄となる。このロスは少なくない。さらに、安定してプロジェクトに要員をアサインできることによって収益につながる稼働率を大きく向上させることが可能になる。この受注活動のロスの低減と、稼働率の向上は、要員を提供するベンダーの収益性を大幅に改善することを可能にする。プリファードベンダーはベンダーにとっても願ってもない受注形態であり、その見返りとして低単価でのサービス提供と優秀な人材の提供を優先して発注者に対して行うことができるのである。このような、双方のメリットを充分生かした戦略的なリソース調達はこれからますます適用事例が増えることであろう。

競争とパートナーシップ

どの業界においても、長期的なベンダーとの関係は重要であるが、長期的な付き合いが長くなればなるほど、どうしても馴れ合いが発生し様々な弊害が出てくる。戦略的に長期な付き合いができる優秀なベンダーは必要であるが、どのようにしてそのベンダーを使うことの優位性を維持していくかは調達マネジメントにおいて重要なテーマとなってくる。もたれあいを排除し、常にベンダーから高い競争力を引き出すためには、競争環境の整備が不可欠である。そのためにも、調達先を1社に絞り込むことは注意しなくてはならない。1社にすれば、確かにスケールメリットは大きく、コストダウンの可能性も高くなり、競争力は増すであろうが、それは一時的な話であり長期的にはコスト高になる可能性がある。代替が無いことは危険である。発注側にオプションがないということは、ベンダーの発言力が強くなる可能性が高くなり、ベンダーはある意味ではぬるま湯に浸り続けることで結果として競争力を失い、そのベンダーを使っている発注側も自動的に競争力を失うこととなってしまう。少なくとも2社ベンダーが存在すれば、2社は競争せざるを得ず、結果としてお互い発注側からシェアを高めるために切磋琢磨し、競争力を維持することができる。また、もしどうしても1社しかできない場合は、自社でその能力を持ち、発注側の部門とベンダーを競争させることでも良い。発注側に能力があれば、いつでもベンダーを変えることが可能であり、ベンダー側は発注側よりも高い技術力と生産性を維持し続けなくてはならないという、緊張感の中におかれるため、自然と競争意識が醸成される。

これは発注側にもいえることで、ベンダーと戦略的なアライアンスを組んだことで安心してはいけない。アライアンスを組むにおいて気をつけなくてはならないのは、緊張関係の維持であり、お互いの潜在能力の引き出すための工夫である。全てにおいて言えることであるが、人はその環境に慣れてくると、自然と自分の持つ本当の力を引き出さなくなってしまう。これは、人も企業も一緒である。その安心感、馴れ合いが自然と競争力を奪っていくのである。戦略的なアライアンスにおいて重要なことは、アライナンスを結ぶことではなくて、アライアンスのシナジーを切磋琢磨して高めることである。

競争環境の整備に加えて、もう一つ重要な点は情報の共有と相互の信頼関係である。発注・受注の構造は上下関係をイメージし、発注側の言うことを行かなくてはならないという先入観から、受注側は思考を停止してしまうケースを良く見かけるが、これは最悪である。発注側が全てを分かっているわけでもなく、明確なアイディアを出せるとも限らない。相互の能力を最大限に発揮させるためには、深いレベルの情報共有は不可欠であり、発注側と受注側がお互いの課題をオープンに出し合い、相互がどのように貢献して解決できるか、知恵を出し合えるような「場」が必要である。相互の信頼をベースとした中で、発注側・受注側という立場を超えて、お互いがパートナーとして問題解決に協力できるチームとして活動できる体制や場は、相互のパートナーシップの成果を高めてくれるであろう。

全体最適のアプローチ

製品を提供するまでの流れは一般に、設計→材料調達→加工→組立・据付→検査・試験というステージで流れていく。調達マネジメントはこの中で材料調達そのもののと、全ステージでの人的リソース、サービス支援に関係するが、調達行為は最終的な成果物の品質を担保しつつ、納期遵守とコストダウンをどう実現するかという点が主たる目的となる。その場合、往々にしていかに品質の良いものを安く調達するかという視点が支配的となり、調達活動を考えがちとなる。 しかし、もう少しプロジェクト全体を見渡して考えていけば、調達を工夫することで品質、納期、コストを改善できる手立てが残っていることに気がつく。 また、実際にその方法でコストダウンを行っている企業も多く存在している。

建設業界においては、調達といえば材料調達であり、それらの材料をどのように安く調達するかは先の集中購買においても述べた。しかし、材料費は建設コストの約20%程度であり、建設コストの大部分を占めるのは材料調達後の施工フェーズのコストであり、建設コストの約60%近くを占めている。しかも、その施工コストの90%以上は外注費が占めており、施工フェーズの外注費をどう削減するかは利益率や企業競争力に直結する課題である。だが、現場での外注費は、材料の加工、組立、据付などの工事施工量に依存しており、納品すべきものが変わらない限り大きく変化することはない。だが、ライフサイクルを通して、施工段階の工数を低減させる方法が徐々に増えている。いわゆるプレファブ方式である。プレファブとは、材料調達段階である程度材料を加工し、パッケージ化して組立て、それを現場に搬入することで、現場での加工・組立作業を大幅に削減することを狙ったやり方である。工場は、設備や技能工がそろっており、しかも加工もやりやすい場所で作業ができるので、品質良く、高い生産性で作業を行うことが可能である。調達フェーズはパッケージ化工数が増え割高になるが、現場においてそれ以上の外注費を大幅に削減することが可能になるのである。つまり、上流と下流での仕事の分担を変えることで、全建設コストを低減するのである。

このような考え方は建設業界にとどまらない。製造業においても、細かく部品を調達すると、工場において組立工数と検査工数が増えるため、部品をある程度の塊としてモジュール化して、そのモジュールごと調達することで、全体の組立工数や組立期間を減らし、生産性を高める方法を行っている企業も多い。そのためには、モジュール調達が可能となるような設計を製品設計の段階で組み入れなくてはならないが、プロジェクトのライフサイクルを通して、全体最適を実現するために、上流側で下流の工数を削減するための設計を行うことも、調達マネジメントの範囲としてとらえることが今の時代では適切に思われる。

調達を一元的にとらえず、ライフサイクル横断、プロジェクト横断的に考えれば様々な手当ては可能であり、戦略的な調達の実現性は高くなるであろう。